●2019年6月第2週のまとめ
・週間指数動向
今週は、引き続き米国主導の通商問題、Brexit、中東地政学的リスクを背景とする世界的な景況感悪化に対する懸念も、FEDの「patient」から早期利下げ転換への期待から底堅い展開に。週間ベースでは、主要全市場がプラス圏で推移。東京市場は、日経円建て、ドル建ては4週続落続後に続伸、TPXは続伸の展開。米国は三指数ともに上昇。DJIAは6週続落から、SPX、NASDAQは4週続落から続伸。欧州は、FTSE、DAXともに続伸。中華圏指数は、上海総合指数は、先々週の六四天安門30周年通過週の下落から反発、香港は4週続落後に続伸の展開に。今週の史上最高値、昨年来高値更新市場はなし。年間ベースでは全市場がプラス圏で推移。
日経平均円建ては、4月中旬に200日線をギャップで飛ばして上伸したものの、大型連休明けにこれをアイランド・リバーサル化して一段下落。その後は21000円台での揉みあいから再び下抜けて二段目の下落に突入するものの、2月安値水準とのダブル・ボトム素地を形成していったん反発。足元では5月高値水準を前に上げ詰まり気味の展開に。ここからは、5月前半で揉みあった水準が上値抵抗としてワークして三段目の下げに進展していくのか、2月安値-6月安値のダブル・ボトムのネックライン22500処の突破に向かう動きとなるのか注目。なお、週足ベースでは52週線割れかつMACDが陰転気配。先々週の差し込み線から上に放れて「十字線」を示現。
日足①→②→③のN値は20120円、日経平均一株当たり純資産(BPS)は19850円程度、日銀ETF買いの損益分岐点は18500円処(18000~19000円程度の説)。他方で④→⑤→⑥のN値は23690円。
さらに今週金曜日には株数ベースの裁定売り残が買い残を上回る事象が発生。過去を振り返ってみると、同様の事象が発生したのは、日経史上1998年9月、2016年9月、2018年12月の三回で今回が四度目。過去の三回はいずれもその後に上昇に転じているものの、後述する1998年は利下げからITバブルに、2016年はBrexitから米大統領選を経た「減税」、直近2018年末は「patient」からの利下げ思惑の織り込み相場。「裁定売り残>裁定買い残」は相場上昇の「十分条件」ではあるにせよ、実際に相場を押し上げる「材料」が必要な点には留意。6/19FOMC、6/29のG20会合にかけてこの20000~18500円あたりまで突っ込む局面が見られるのか、もう一段上昇して52週線、4月高値テストに向かうのか注目。
S&P500は、5月初旬の上げ詰まりから月末にかけて下押しするものの、6月初旬のFEDによるpatient→利下げ視野への政策転換を背景に3月安値水準とのダブル・ボトム素地形成から急速に切り返す展開に。週足ベースでは先々週の「つつみ足」から上に放れてこちらも「十字線」を示現。ここからは奪回した200日線水準を再度フロア化して5月高値(=史上最高値)奪回に向かうのか、ここでの上げ詰まりから先々週の「つつみ足」内に押し戻される展開となるのかに注目。なお、①→②→③のN値は3320P。
また、1998年からITバブルへと続く期間と2007年サブプライム・ショック至る期間と利上げから利下げへの転換思惑の今回との比較は図の通り。ここからこの「どちら」をトレースしていくのか、あるいは2018年特有の動きとなって行くのかにも併せて注目。
NASDAQもSPX同様の展開。引き続きFANG系銘柄の戻りが鈍いなか、「型通り」に200日線水準、4月下旬高値→6月初旬安値の半値戻しが抵抗としてワークして再び下値テストに向かうのか、同水準をフロア化して高値更新に向かうのか注目。
5月初旬に史上最高値を更新したSPX、NASDAQに対して、DJIAは昨年10月に示現した史上最高値を奪回できずに大きな三尊型トップ素地を形成中。ここからは他指数と同様に200日線水準が抵抗に変わって調整進行となるのか、同線をフロア化して調整一巡が期待される展開となるのか注目。
DJIA-Nikkeiスプレッドは、FEDの政策転換思惑を背景に再び本年前半に示現した5000P水準に到達。例年の4月、5月にしばしば見られる米>日差を詰め得る期間をほぼそれを成し得ず通過。今後はこの乖離が米指数主導でさらに拡大していくのか、前のめりの「利下げ」思惑がどこかで後退して縮小方向に転じるのか注目。
来週は、通商問題に加えて中東、香港の地政学的リスクへの警戒感が燻ぶるなか、6/19のFOMCに向けてここまでの急速な切り返しのアンワインドが入ってくるのか、本年前半の「patient」好感相場の再来でさらに戻りを拡大していく展開となるのか注目。
・週間債券動向
今週の債券市場は、「patient」から「利下げ含み」への金融政策転換思惑、通商問題、地政学的リスク等が実体経済に与える影響に懸念が燻ぶって米債利回り低下が進行。米10年債利回りは昨年の持合いレンジ2.7~3.0%の下限域を大きく割れて2016年米大統領選後の持合いレンジ下限に到達する展開に。
30-5y、10-2yスプレッドはいずれも若干の拡大傾向、中期ゾーンの金利逆転(インバート)傾向も継続。また、期待インフレ率(BEI)は1.7%割れまで下落。先週はBEI低下が10年債利回り低下を上回って、絶対水準は依然として低いものの実質金利は上昇気味の展開。ここからは、関税措置発動を背景としたコスト・プッシュ型インフレ懸念から17年レンジ上限、18年レンジ下限向かいの2.7%処方向を目指す動きとなるのか、リスクオフの債券買いから2017年レンジを割れて2016年11月の米大統領選、同年6月のBrexit当時の水準につっかける動きとなるのか注目。
なお、債券ボラティリティー(TYVIX)は2018年後半からの高値を超える展開。引き続き「債券ボラティリティー上昇発」の波乱には警戒しておきたいところ。
期待インフレ率(BEI:10-Year Breakeven Inflation Rate)は、中銀の政策転換思惑、通商問題に対する懸念深化で低下が継続。本年1月以来の水準まで低下する展開に。5年先5年物予想インフレ率(5y-5y Forward Inflation Expectation Rate)も期待インフレ率と同様の展開。原油価格の上昇効果以外にインフレ期待が盛り上がらない構図は変わらないなか、中東の地政学的リスクによる原油価格上昇、関税措置によるコストプッシュ型インフレ懸念、あるいは、実体経済減速懸念の先行織り込みに対して、「ビハインド・ザ・カーブ」を嫌うFEDの金融政策との綱引きに注目しておきたいところ。また実質金利(≒長期金利-期待インフレ率)低下にるリスク資産の下支え効果が継続するのか否かも併せて注目。
6/14現在のFEDによる6月会合でのFF金利目標は、現行の2.25-2.50%据え置きが76.7%で前週75.0%から僅かに上昇。2.00-2.25%への利下げ織り込みは23.3%で前週の25.0%から低下。この裏側で7月会合での現行2.25-2.50%据え置き12.5%、2.00-2.25%への利下げ織り込みは68.0%、1.75-2.00%への利下げ織り込みは19.5%。
債券サイドでは概ね6月会合では利下げ無しがコンセンサスも、他方でリスク資産の「前のめり」具合は若干懸念されるところ。利下げ見送りの場合には声明文、あるいは議長会見の「文言」次第ではリスク資産に波乱の可能性も考慮しておきたいところ。ここからは、「patient→利下げ含み」によって自らに足枷をはめた感も否めないなか、原油価格上昇(低下)によるインフレ圧力増加(減少)と金融政策の齟齬、また景況感悪化に対する政策の「ビハインド・ザ・カーブ」には留意しておきたいところ。また、引き続き「金利上昇(低下)+リスク資産買い(売り)」の「伝統的反応」で推移するのか、あるいはFEDの方向転換により、本年前半の再来で「ゴルディロックス」的な動きが継続するのかに注目。
欧州金利は、FEDの政策転換思惑、景況感悪化を受けた米債利回り低下の波及と欧州政治に対する懸念(Brexit、EU懐疑派の躍進)からドイツ国債利回りがマイナス金利を深堀り。また、財政不安に対する懸念の燻ぶるイタリア国債利回りも低下傾向で概ね波乱の無い展開に。景況感悪化懸念からの南欧危機再燃懸念に対しては、TLTRO2でセーフティーネットが準備されているものの、ここからは、引き続きhard Brexit懸念、欧州景気減速、債務規則の形骸化による「欧州発」のリスクオフ再燃の可能性に警戒。
・週間為替動向
今週の主要通貨は、週を通すとCNH高>USD>JPY>>EUR>>AUD安のUSD高、USDX高。JPYはストレート円では僅かに円安、クロス円では円高のまちまちで東京指数には無風の展開。引き続き各国金融政策転換への思惑を孕んだ自国通貨の「弱さ比べ」と世界的な影響感悪化懸念を背景に、通商問題、hard Bexit、中東、香港の地政学的リスクの再燃を契機とした、ストレート円での円高進行、人民元安による中国財政状況悪化に警戒。またUSD/CNHが節目の7.0超えが発生するのか否か、またこの時のマーケットの動揺に警戒しておきたいところ。
・コモディティー他
オイル(原油)は、「貿易戦争」深化による将来の需要減、米大統領による口先介入とサウジアラビアによる協調思惑も、イランを巡る地政学的リスクを背景に下げ渋りの展開に。原油価格下落(上昇)による金利押し下げ(押し上げ)効果と、中銀金融政策による金利低下(上昇)バイアスとの綱引きには引き続き留意しておきたいところ。
「炭鉱のカナリア」ハイイールド債は、株価指数に先行しての戻りで高値硬直の展開に。引き続き「原油価格低下または新興国通貨安(ドル高)→新興国、低信用債利回り上昇→クレジット・リスク」の連想ゲームを念頭に、リスク資産、債券、為替、コモディティー市場の動向とあわせて、「突然死」しないか今後の展開に注目しておきたいところ。
・その他
サプライズ・インデックスは、引き続きマイナス圏で推移。直近はいったんの下げ止まり気配も、再びマイナス方向に深化してSPX予想PERと順行する展開に。FEDの「patient→利下げ含み」への政策転換を背景に「bad news is bad news」になり難いゴルディロックス的な展開のなか、政治的混乱、通商問題、ドル高、クレジットリスクによる企業業績圧迫懸念、経済指標のさらなる悪化傾向がリスク資産の許容PER低下を引き起こさないか、またミクロ(企業業績)の悪化がマクロに波及して同指標に異変をもたらさないか注視していきたいところ。
市場センチメントは、直近のリスク資産上昇も通商問題を背景とした景気減速懸念の燻ぶりから引き続き冴えない状態に。CPCは1月初旬以来の高値水準に到達したところから指数の反転を受けて低下傾向。足元のSKEW指数は小康状態で推移。
総体的には、FEDが「patient→利下げ含み」に政策転換するとの思惑を背景に、実体経済に対して金融政策面での「overdosed」と景気減速圏の綱引きが警戒される構図。引き続き「通商問題」によって大きく振られる局面が見られるなか、低実質金利を背景に「ゴルディロックス」の象徴でもある低VIX、低TYVIX状態に回帰する動きとなるのか、高ボラティリティへの移行から波乱に至るのか注目。
来週はFOMC、2Q企業決算待ちで手掛かり材料難が想定されるなか、引き続き政治的混乱、通商問題、地政学的リスクを背景とした景況感悪化懸念に留意していきたいところ。
●来週の主な予定
16日(日)
香港「逃亡犯条例」改正案に対する大規模デモ実施★
17日(月)
NY連銀製造業景況指数(6月)
ECBフォーラム、ドラギECB総裁開会演説
米USTR、対中関税計画を巡る公聴会★
18日(火)
月例経済報告(6月)
独ZEW景況感指数(6月)
米住宅着工件数(5月)
カーニー英中銀総裁、講演
英保守党党首選、下院議員による第2回投票
19日(水)
日本貿易収支(5月)
英保守党党首選、下院議員による第3回投票
FOMC声明発表、経済予測公表、パウエルFRB議長記者会見★
20日(木)
日銀金融政策決定会合、黒田日銀総裁記者会見★
英中銀政策金利★
ECB経済報告
米経常収支(第1四半期)
米景気先行指数(5月)
カーニー英中銀総裁、講演
英保守党党首選、下院議員による第4回投票
EU首脳会議
21日(金)
日本消費者物価指数(5月)
米中古住宅販売件数(5月)
ブレイナードFRB理事、FRBイベント参加
23日(日)
フィラデルフィア連銀総裁、講演
トルコイスタンブール市長選再選挙